内藤まろの書き写したい日本語

8月, 2013年

在原業平

2013-08-15 内藤まろ

秋萩をいろどる風はふきぬともこゝろはかれじ草葉ならねば

あきはぎをいろどるかぜはふきぬともこころはかれじくさばならねば

 

ちはやぶる神代もきかず竜田川からくれないに水くゝるとは

ちはやぶるかみよもきかずたつたがわからくれないにみずくくるとは

 

見ずもあらず見もせぬ人の恋しくばあやなく今日やながめくらさむ

みずもあらずみもせぬひとのこひしくばあやなくけふやながめくらさむ

 

起きもせず寝もせで夜をあかしては春のものとて眺めくらしつ

おもきもせずねもせでよるをあかしてははるのものとてながめくらしつ

松尾芭蕉

2013-08-15 内藤まろ

荒海や佐渡によこたふ天河

あらうみやさどによこたふあまのがわ

 

一家に遊女も寝たり萩と月

ひとつやにゆうじょもねたりはぎとつき

 

 

三人客

2013-08-14 内藤まろ

「お待遠様、」

と出したのを、黙って請取って、腰のあたりで

引着けたまゝ茫やり。

「おやおやおや!」

帳場から、

「父上!」

「何うしたの、」と娘もばたばた、何につけても忙しい、

壱岐殿坂下のおやこ蕎麦と看板に記して、

夫婦と娘ばかり、男も使はず、近所の手前は親仁が受持って、

留守の内は板前を母親から預る、娘が給仕の共稼ぎ。

店も座敷も八畳の上が口の此の間一つ、積んだ蒸籠を床飾りにして、

客は五人だとぎっしり立込む程、内端な商売、勿論こゝが親子三人の

閨にもなる。

親子そば三人客

2013-08-09 内藤まろ

「一合正宗をつけておくれ。」

「お君や、熱くしてお上げ申しな。」

「はい、はい、」

母親と客へ二ツ返事で、お君という娘、向をかへると手を上へ、

一寸爪立ったが、真暗な棚の、貼札を正面にならんでいる、罎の中から

一本抜いて、直ぐしたの板の間へ、無造作に十能を差置いて、

小刻みに、やがて、煤けた柱でくぎったやう、磨硝子を嵌めたる如き、

湯気のむらむらとして、洋燈の朦朧とある中へ見えなくなる。

彼処に父親が居て、其のかゝりで、

「かへ一上、と口早也。

「あいよ、」

直ぐに娘は盆を据えて、片手を振りながら、台所の曇ったやうな

中仕切りの敷居を跨いで、結綿に結んだ手柄の色、鮮麗に露れたが、

此の註文は別に一人。

入口に極近く、障子に肩の触れるばかり、しをれたさまして、

羽織も着ないで、頬被をして居たらしい、なえた手拭を

項に絡いて、身を窄めて居たわかいもので、顔を灯に背けたから、

年紀の頃はよく分らず。

 

親子そば三人客

2013-08-06 内藤まろ

「然やうさ、」といひかけて、火鉢の縁に頬杖した、

客はフト心付いたやうに、自分と斜向に、其は入口の、

一間破れた障子を背。上框に腰をかけた、左足を土間一杯に踏伸し、

銅色の艶々と、然も痩せた片足を前はだけにぐいと折って、

踵で臍を壓するばかり、斜めに肩を落として、前のめり、

居睡すると身ゆるやう。左利の拇指と、人差を割ったのに、

薄手の猪口を挟んで、肘を鍵形にちゃッちこばらせ、貧乏揺ぎといふ、

總身をゆすぶッては俯向いたまゝ、猪口を鼻の先で押つけるやうにして

酒を嗅いで居る親仁があった。これを見て、目を返して、

いま引返さうとする娘が、襟足の雪のやうに鬢の浮いた、

蓋子もしなよく、すらりとした後姿を、

「あゝ、姉さん、」

「はい、」とあでやかに振返る。

 

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