内藤まろの書き写したい日本語

三人客

2013-08-14 内藤まろ

「お待遠様、」

と出したのを、黙って請取って、腰のあたりで

引着けたまゝ茫やり。

「おやおやおや!」

帳場から、

「父上!」

「何うしたの、」と娘もばたばた、何につけても忙しい、

壱岐殿坂下のおやこ蕎麦と看板に記して、

夫婦と娘ばかり、男も使はず、近所の手前は親仁が受持って、

留守の内は板前を母親から預る、娘が給仕の共稼ぎ。

店も座敷も八畳の上が口の此の間一つ、積んだ蒸籠を床飾りにして、

客は五人だとぎっしり立込む程、内端な商売、勿論こゝが親子三人の

閨にもなる。

Copyright© 2017 内藤まろの書き写したい日本語 All Rights Reserved.