内藤まろの書き写したい日本語

親子そば三人客 泉鏡太郎

2013-07-25 内藤まろ

「花まきを一つ、」と誂へて、縞の羽織の片手を懐に、

右手で焼落しの、最う灰になった大火鉢をぐい、と

引き寄せながら、帳場格子を後にして整然と座った、

角帯に金鎖を見せた客があった。彼是十二時に近い頃、

雨上がりの春寒い晩である。

「まきを一、」と媚かしい声で通したが、やがて十能に

真赤なのを堆く、紅の襷がけ、丸く白い二の腕あたり

惜気もなう、甲斐甲斐しく、土間を蓮葉にカラカラと

突っかけ下駄で持って来て、金火箸を柄長に取って

火鉢にざッくり。

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